【み】「ミスマッチなふたり」
「み」
次のルールで恋愛ゲームを行う場合を考えてみましょう。参加人数は男女とも同人数とします。男性だけが好みの女性に告白ができ、告白を受けた女性はOKすることも拒否することもできます。男性がある女性に告白しても、その女性が他の男性を好む場合は断られます。断られた男性は、別のまだペアになっていない女性を選びます。ただし、男女とも誰も相手を選ばないのはルール違反です。さてこのゲームでは、告白する男性と告白される女性のどちらが、より満足いく結果を得られるでしょうか?実は圧倒的に有利なのが自ら告白できる男性です。仮にある女性をふたりの男性が選んだとしましょう。しかし、告白した男性二人共が女性の好みでない場合もあります。その時点で、この女性がもっとも好ましく思っている男性は、別の女性を選んでいることになります。つまりこの時、女性は自分にとってのベストを除いた選択肢しか与えられないのです。一方で、この女性に告白した男性のどちらかは、OKされれば望む女性を得ることができます。ただ、こうした告白と選択を繰り返すと、結果的にお互いにベストとは言えないまでも、安定したペアが生まれます。これは「安定的なマッチング」と呼ばれる理論で、2012年にノーベル経済学賞を受賞しています。安定的なマッチングの本来の対象は、恋愛ゲームではありません。たとえば、研修先を選ぶ研修医と研修医を受け入れる病院の間で、両者の満足度が高い組み合わせにはどのようなものがあるか、またそういう組み合わせをつくるためにはどのような前提が必要かなど、ミスマッチを極力減らすために、経済学で「メカニズム・デザイン」と呼ばれる考え方を応用して生み出されたのが安定的なマッチングなのです。この理論は、現在では臓器移植を受ける患者と臓器を提供するドナーのミスマッチを減らすためにも大いに役立てられています。